ソーシャルメディア・スタディーズ
本書は、デジタル空間に開かれるソーシャルメディア上のコミュニケーションの実態を多面的に把握するために構成された教科書的な参考書である。各章の最後に、読書案内や授業コメント欄がもうけられ、大学初年次のメディア論の導入として最適な教材になっている。内容は三部構成で、第一部「ソーシャルメディアのプラットフォーム」、第二部「ソーシャルメディアと文化」、第三部「ソーシャルメディアと政治・経済」に分かれる。ソーシャルメディア上のコミュニケーションのみならず、ポピュラー文化とサブカルチャーといった学生にも馴染み深いテーマから、資本の動きや意思決定等の政治経済の事例まで、網羅的に解説をほどこしている。
最終章の「ソーシャルメディアの教育活用」では、オンライン化が進んだ大学授業で、アクティブラーニングの経緯をふまえたソーシャルメディアの活用法として、スマホがもつ「記録媒体」や「通信媒体」の特徴を活かし学修に活用する例や、演習(ゼミ)形式の講義でGoogle Classroomを使い、時空間の制約をこえて学生相互の意見交換を促す方法が紹介されているため、教科書としてのみならず、大学教員の授業デザインの参考にしてもらいたい。
なお『ソーシャルメディア・スタディーズ』に限ったことではないが、昨今「〇〇スタディーズ」および「〇〇セオリーズ」と題するリーダータイプの書籍が飽和状態にあり、どれをメディア論の教科書として採用してよいか分からない状況が続いている。視点が異なる複数の論者による共同著作を、メディア研究の標準的なテキストとするのは限界があるのではないか。雑多な議論を集積した索引目録(アーカイブ)ではなく、ひとりの論者によって統一的視座から書かれた体系的な「理論」の教材が求められる所以である。
(難波阿丹)